医事課からみたあの作品―『陽のあたる家』の高額療養費・傷病手当金―

 

 

夫婦と子供2人世帯の「沢田家」が、夫の急病と失業により経済苦に見舞われ生活保護を受給するまでを描く、さいきまこ『マンガでわかる生活保護 陽のあたる家~生活保護に支えられて~』(秋田書店)。

受給してからも日々周囲から不正受給のバッシングを受けるというストーリーで、「福祉への抵抗感や、バッシング、偏見もあるけど、生活保護を受給することは権利です!」と訴える(訴えたいであろう)マンガにしてはちょっと極端過ぎる表現も見受けられます。

医事課職員として気になるのは、時として間違って描写される社会資源(社会保障制度や社会福祉サービスなど生活する上で支えになる仕組み)。

そこで、マンガを取り上げながら、各社会資源を詳しく見て行きましょう。

 

 

さて、沢田家は夫が会社員、妻がパートで「共稼ぎでもカツカツ」、そこへ夫が急に入院し、2ヶ月のうちに貯金残高は危機的状況、妻は夜まで働き家事に手が回らず、夫は会社からクビを言い渡されるのです。

夫の2ヶ月の入院で預金が底を付く、ってこの家庭には蓄えはないんかい!という感じであります。

むしろ、夫を会社勤めではなく自営業とし、普段から経営難だったところに入院、というストーリーの方がリアリティがあったように思われますが…。

 

さいきまこ『マンガでわかる生活保護 陽のあたる家~生活保護に支えられて~』(秋田書店)より引用

 

なのに医療費はどんどん出ていく
高額療養費制度を申請したし
医療保険の給付金もおりたのに
追いつかない
このままじゃ貯金もいずれ底をつく…

 

高額療養費を申請したということは、

「2ヶ月の入院で預金が底を付く」とされる家庭の夫の給料から考えて所得区分は仮に「エ」として

たとえば1ヶ月30万円の医療費を病院の窓口で支払い(3割負担の患者さんが1ヶ月入院すると大体はそれくらいかかります)、健康保険から24万2400円が還ってくる予定です。

ただし、還付には申請から2~3ヶ月がかかるので、その間沢田家は綱渡りということになります。

敢えて認定証を使っていないのは、「まだ認定証の制度がない時代だった」というよりは「一気に物入りになった感を出す演出」のような気もしますが、

とにかく認定証を使えば、医療費の自己負担は劇的に引き下げられます。

むしろここの奥さん、この貯金の状態でよく30万円の医療費を一括で払えたものです。

 

 

そして、何気なく書かれて全く説明されていない「医療保険の給付金」は、恐らく「傷病手当金」のことかと思われます。

「傷病手当金」は健康保険(社保のみ。国保にはありません)の給付の一種で、まあ色々条件はありますが端的に言うと「4日以上休業した場合に、給与に近い額の手当金が健康保険から出る」ものです。病気やけがで休職する間の、主な収入源となります。

これが既におりているのに家計が追いつかないのは、入る金が小さいのか出る金が大きいのか…。

 

夫は入院中に退職を余儀なくされていますが、退職後も条件を満たせば「傷病手当金」は継続して受給可能です。

こちらも申請から給付までに時間はかかりますが、それなりの額をもらえる頼もしい制度です(その割に本編では全く語られず…)。

 

なお、制度の詳細は全国健康保険協会HPでの「傷病手当金」「よくあるご質問」をご参照ください。